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人形が夢見るは如何なる未来か(3) -ブルディカの記憶ー

 長い耳に大きく裂けた口、丸い目がつけられた人形を前に、張はある生物を思い浮かべていた。それはブルディカも同様であった。
 「グレムリン・・・のようですね」
 アデン各所に生存するグレムリンは、地面に落ちているものを何でも収集するという特徴がある。今の反応から見て、その特徴を引き継いでいるようで、しかもここは稀代の天才錬金術師の部屋だ。
 「ただの人形ではない、ということですね」
 部屋の様子から、この人形が荒らした所以外、特に家探しされた痕跡は見当たらなかった。
 「さて・・・困ったな」
 ブルディカを名乗る謎の人物と一緒に出掛け、残されたのは不細工な人形ひとつ。行先を探ろうにも心当たりがわからない。
 どうすべきか思案中の二人は、ほぼ同じ考えに行き着いたようでー。
 ぴたりと動きを止めていた人形の首が、少しだけ傾いた。


 アデンの商店街を北の方向へと向かっていたリュミエールは、常に何か考え事をしているように見えた。腕を組み、片手は自分の顎を支えるように当てている。
 突然訪ねてきたブルディカと名乗る人物が人間ではない事は、一目でわかっていた。深く被った旅人用の外套の下から見えた肌の色は異常に青白い。
 王からの使いで、親交の深いラビエンヌが行方不明になった。その探索にどうか一緒に来てご助力願いたい、との話だったので同行することになった。簡単な荷物をまとめ、すぐに出発したのはその日の午後になったばかりの頃である。
 「-といったわけで、今に至るのです」
 ブルディカの説明も聞いているのかわからない様子であったリュミエールだが、ふと立ち止まってブルディカを見た。
 「どうされました?リュミエール殿」
 商店街を抜け、首都の北門が見えた辺りである。
 「さっきから気になっていたんだけど」
 顎に置いていた手を下ろし、普通に腕組みをした姿勢になったリュミエールは続けた。
 「周囲を取り囲んでる四人は、あなたの配下の人?」
 ほう、とブルディカは驚いた。
 「気配を消している我々を察知されるとは、さすが天才といったところですか」
 「正解、というわけね」
 視線をブルディカに戻して、リュミエールはさらに続けた。
 「ではもうひとつ。あなた、ブルディカという人じゃないでしょ?」
 気配が変わったのを、リュミエールは感じた。
 温厚そうな雰囲気が、一変していた。
 それは冷たい刃のような殺気であった。
 同時に周囲の四人が一気にリュミエールを囲んだ。
 「それも、正解、てことね」
 ブルディカを名乗った男の口元が醜く歪む。
 「勘が鋭いな、お嬢さん」
 丁寧な口調は、歪んだ口元に似合ったそれに変わっていた。
 リュミエールの背中に小さな痛みが走った。何かの切っ先が突きつけられている。
 「そのまま後ろから内臓をかき回されたくはないだろう?」
 組んでいた両腕を頭に移し、抵抗の意志がないことを示したリュミエールの表情は、しかし平常心であるようであった。
 「天才だけに、賢い選択だな」
 
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人形が夢見るは如何なる未来か(2) ーブルディカの記憶ー

 沈黙の洞窟を出たブルディカは、アデン王に仕える魔法使いの張と共にアデンへと向かい始めた。王とドレビンは再び瞬間移動の魔法で王都に先に帰還し、残った張がブルディカに同行することになった。洞窟に来た時の瞬間移動の魔法によって、張の魔力が尽きかけていた事も考慮して、である。
 今から話せる島に向かっても新たに得られる情報はないだろう、との判断であったが、首都アデンに向かうにはそれなりの理由があった。
 行方不明となったラビエンヌと親交の深い人物が首都アデンに滞在しているからだ。その人物もまた象牙の塔の錬金術士の一人であり、若き天才と謳われた人である。
 洞窟を出た二人は、ふと空を見上げた。
 王達の不安を余所に、アデンに降り注ぐ太陽は収穫の時を告げる黄金色に輝き始めていた。

 首都アデンーそこは広大なアデン大陸を統治するべく建築された王都である。華やかな屋台が犇めき、高級住宅街が立ち並ぶ反面、スラム街と呼ばれ下級階層の人々が暮らす場所も存在する。光と闇が混在する巨大な都の商店街の一角にある老舗の雑貨屋「涼風の香る丘」の店主キャサリンがお店に尋ねてきた二人を見て少し眉を寄せた。
 「はぁ・・確かにリュミエールさんはうちに居候しておりますけど」
 そう言って、回復薬を買いに来た客に商品を手渡してから、二人の顔を見た。
 「さっき訪ねてきた、えっと・・・ブルディカさん、だったかな。その人と一緒に出かけちゃいましたよ」
 それを聞いて、今度は訪ねてきた二人が眉を寄せた。
 -どうなってるんです?あなたの名前がありふれたものとは思えませんが・・・。
 張の囁きに、ブルディカが頷く。
 「すいませんが、少しの間リュミエールさんのお部屋を見せていただいてよろしいですか?」
 張はそう言いながら、キャサリンにそっと布袋を差し出した。それ相応のアデナが入っているようであったが、キャサリンの注目したのは袋にある紋様であった。獅子を描いた紅の家紋は、王並びに王に仕える家来に渡されるもので、つまりは目前の二人がアデン王に仕える者であるという証拠であった。
 「そそそんな、受け取れませんよ!それは!」
 慌てて部屋の入口を教えてくれたキャサリンの豹変ぶりに少し笑みを浮かべた二人が、案内されるまま、その部屋の前に立った。
 扉を二、三度軽く叩き、中からの返事を待ったが、代わりに聞こえたのは何かが暴れたような音であった。
 視線を交わした二人が扉を開けた。
 瞬間、ブルディカの動きが止まった。
 手狭の部屋の中、作業机らしきものの上には様々な書物が積み上がり、もうひとつの机の付近には床に落ちた大きめの布と散乱した食器、そしてー。
 「・・・・・これは?」
 お世辞にも上手に作られたとは思えない緑色の小さな人形が、顔だけを入口に立った二人にゆっくりと向けた。
 「・・・動く・・・人形?」
 最近、ここまで困惑したのは知り合いの泥酔したエルフに無理やり飲まされそうになった時以来だった。
 刹那、ぴょこぴょこと部屋の床を逃げ回るかのようにぐるぐる回り、人形は落ちていた皿やらさじやらを拾い上げ、どこへつもなくその身に隠していく。
 「これも・・・研究のひとつ、かな」
 張が呆れ顔で言って、しゃがみこむ。
 ぴたり、と動きを止めた人形が再び二人を見て、きょとん、としていた。
 
 

人形が夢見るは如何なる未来か(1) ーブルディカの記憶ー

 竜の谷、と呼ばれる場所は怪物達の住処であり、古くから地竜の眠る場所として恐怖と畏怖の念を集めていた。それだけにここに踏み入る冒険者達は少なく、また彼らの多くはその生命を谷に捧げてきた。
 不死の怪物であるスケルトン系に巨躯をもって暴力をまき散らすオーガ、石化の視線で命を貪るコカトリス等の怪物に加えて、この谷を特別とする存在がまだ、ある。
 この谷に侵入する冒険者の前に立ちはだかる謎の魔法使い「黒の魔導師(ブラックエルダー)」。彼もまた、不死の存在とされており、二百年前に発行された見聞録にもその名を見る事ができる。強力な魔法を使い、幾多の冒険者達を屠ってきた暗黒の魔導師は、今日もまた谷へ侵入を試みる冒険者を見張り続けているだろう。
 そして、自由に飛び回る巨大な飛竜(ドレイク)。アデン大陸に伝わる四匹の竜、そのひとつである地竜アンタラスが眠る場所へと通じる入り口を守るかのように飛び、炎の息で侵入者を焼き払い、鋭い牙で敵を引き裂き続けてきた。これを倒せた冒険者には「飛竜狩り(ドレイクハンター)」の称号が与えられるほどで、歴史上その称号を得た者はそう多くはない。
 これら伝説にも思える存在を掻い潜り、進んだ先に隠された洞窟がある。
 かつて闇の勢力ラスタバドに属し、今は光の神を信仰する一部のダークエルフの活動拠点。
 「沈黙の洞窟」と呼ばれるこの地に、突如として瞬間移動の魔法で現れたその姿を見て、警備を任されていたカーンは驚きの表情を隠せなかった。
 真紅の髪の色に、凛とした気配。若きアデンの王と二人の魔法使いを見て、警備隊は手にした武器を収めた。
 「火急の要件、とお見受けするが・・・」
 カーンの問いに、アデン王は頷いた。
 「そこから先は私が話を聞きましょう」
 取り囲んだ警備隊の背後からそう言ったのは、ダークエルフ達の長であるブルディカであった。

 崖を繰り抜いた部屋に通された王達の前にブルディカが立っていた。
 「瞬間移動まで使っての要件、今のアデンにそれほどの脅威があるとは思えませんが」
 ブルディカの意見は、アデンに住む者として当然のものであろう。
 悪の王と呼ばれたケンタウヘルと彼を支える魔法使いケレニスを倒し、新たにこのアデンを統治したチャールズ・フォン・デュフェルと妹のアイリーン・フォン・デュヘルのもたらした平和の時間は、まさにアデンの民が求めてやまなかったものだった。その証に、統治してすでに四ヶ月経過しているが、未だに開放を祝う祭りが全土で続いている。
 待ち望んだ平和の時をわざわざ乱すような真似をするとは思えなかった。
 「話せる島にいる象牙の塔の錬金術士の一人、ラビエンヌという女性がいるのを知ってますか?」
 王と共に来た魔法使いの一人ドレビンが口にした名前を、ブルディカは知っていた。
 「あなた方人間にはそう興味はないかもしれない、が。我々ダークエルフにとって、彼女の研究はとても興味がある」
 「グランカインの涙」
 もう一人の魔法使い、張が言った。
 グランカインの涙とは自然が生み出した未知なる力の源であるとされ、その形は完全な球体で、まるで瞳のように見える模様が浮かび上がっている。あらゆる属性の特徴を秘めたこの球体が、何処から誰の手によって発見されたかはわかっていない。持ち込まれた先がアデン大陸の魔法研究機関「象牙の塔」であり、そこで長く研究されてきた。
 「あれは、ラスタバドにある地下鉱脈でごく稀に発掘されるもの。秘められた魔力を融合して作り出される装備は、究極という意味のファンタズマという冠詞がついたものとなります」
 「それを知ったのは、あなた方ダークエルフと話が出来たからです」
 真紅の髪を揺らし、リチャード王が言った。
 「グランカインの涙の人口精製を可能としたラビエンヌの研究成果はとても大きなものですが、同時に脅威にもなる危険性がある。象牙の塔は彼女にオーレンに戻ってくるように通達していたのですが、話せる島での研究がまだ残っているとかで、移動を拒んでいたそうです」
 「涙はそれ自体が強力な魔力の源です。扱い方次第では、仰るように危険なものへと変わるでしょう。象牙の塔の判断は正しいと思いますが」
 「そのラビエンヌの行方がわからなくなったのです」
 それを聞いたブルディカは、やっとで今回の緊急の来訪の意図を悟った。
 「魔力探知を行ったのですが、塔では彼女の所在地を特定できない、との事でした」
 アイリーン姫付きのナイトと魔法使いの二人が話せる島で調査した結果、数日前突然いなくなったらしい。多分、バッシュとロイだ。あの二人の報告であれば、信用度は高い。
 「ラビエンヌの消息を掴む為、ご助力頂きたい」
 リチャード王はそう言って頭を下げた。
 ふむ、とブルディカは少しの間だけ思案し、そして王達にこう告げた。
 「私が行きましょう、その方がよさそうです」
 
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