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暗黒竜の胎動(1-2) ー生命の樹物語ー

 なんでそれを、と声にしかけて口に両手を当てた。
 その仕草そのものが、目前の初老の剣士が望む品があることを示している事に気付いたが、すでに手遅れだった。
 首を左右に振りながら、店主は店の奥へとロミュラン・エールを取りに向かった。
 「さて、と」
 初老の老人が振り向いた先には、小柄な少女が立っていた。
 「それなりに腕に自信がある連中ともなれば、相手の強さがなんとなく、理解るもんだ」
 どうやら先程の二人の事を言っているらしい。
 「まあ、本当の怖さは、その先にあるんだがな」
 「でも、それは取引の禁止されているお酒を飲む理由には・・・」
 ロミュラン・エールー現在は断絶状態にある隣国エルモアが原産地の、非常に強烈な酒である。が、何処にでも裏の取引経路というものは存在するもので、特にこの酒は人気が高い。半透明の青色で見た目に美しく、口当たりはまろやかだが、裏腹に酒成分が非常に強く、飲み方を間違えると二日酔いどころか、三日は役に立たない状態になるという。
 表立ってお品書きに加える事はできないが、国家の役職に就いている人物達にも人気は高く、いわゆる「見て見ぬふり」になっているのが現状であった。
 「そう堅いことは言わない!な、レン殿も一度試してみるといい」
 店主が持ってきたグラスを素早く受け取ると、レンと呼んだ少女の目前に突き出した。
 流れでなんとなく受け取ってしまったレンは、少し香りを楽しんでから、一気に飲み干した。
 「ああああんた!そんな小さい子に飲ませてどどどどどうすんだ!」
 慌てた店主に、剣士は人差し指を立ててこう囁いた。
 「大丈夫だ!彼女はこう見えて私よりも年上だよ」
 飲み干した拍子に、被っていた外套のフード部分が後ろに降りた。
 そこには、アデン大陸において人間と共に生活しているエルフの姿があった。
 「うん、とても美味しい」
 もう一杯、と言いかけたレンのグラスを奪うように取り上げ、今日はここまで、と剣士が言った。
 「さあ、さっきの話の続きだがー。血が登った二人の面目は丸つぶれ。お互いが腕に自信がある、とくれば次に考えるのは、なんだかわかるか?」
 「仕返し、ですか?モス様」
 少し考えてから答えたが、モスは指を鳴らして惜しい!と言った。
 「半分正解。もうひとつ、可能性としてあるのは」
 ぐるり、と酒場の中を見回した剣士ーモスが、一人の青年に注目した。
 「八つ当たり、てやつさ」
 その時、注目した青年は、腰に大きな剣を携え、ちょうど店から出ようとしていた。
 それを見て、レンの方を向いてモスがニヤリと笑った。
 「どうやら、面白いものが見れそうだ」
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暗黒竜の胎動 (1-1) ー生命の樹物語ー

 平和な時を迎えたアデンの人々の多くは、世界がまだ危機に直面している事を知らない。
 巨大な地下帝国「ラスタバド」ーダークエルフ達との戦争は、真の敵を見出したブルディカ達と若き紅の獅子の王率いるアデン勢の勝利に終わった。だが、狂ってしまった冥王ダンテスを止めることは叶わず、その狂心によって召喚されてしまった「ギルタス」という神の存在を、完全体半ばにして中断させるのが精一杯であった。それは今もダークエルフ達の聖地に、確かに存在する。
 不死の賢者の異名を持つ魔導師の言葉を信じるならばー。
 「ギルタスの意識が戻ったならば、世界にどのような影響があるか計り知れない」
 
 アデンの動乱の歴史は、未だに結末を書き込まれてはいないのであった。

 アデン王国の中にあるケント領は、古くから武術の国として有名であった。
 独立した国家であった時代もあり、各地の領地に仕える騎士団の筆頭騎士や騎士団長の多くがこのケント領からの出自で、今も武芸を重んじる伝統は受け継がれている。
 現在のケント領を治めるのはセイレイ・コーラスという美しい女剣士であり、歴代のアデン王の中にあるコーラス王の血脈を持つ人物である。
 彼女が治めてから初の武術大会が開かれる、という知らせはアデン商団の配る新聞で全土に知らされ、開催日が迫るにつれて、多くの武芸者や剣士達がこのケントに集まってきていた。
 城下町にある宿屋や酒場も人で賑わい、露店などでは様々な武具が取引されている。
 「トンタークの息吹亭」も、例外ではなかった。
 一階が大きな酒場、二階が宿という、ごく普通の造りの老舗だが、朝から深夜まで多くの旅人が出入りしている。
 勿論、ガラスが割れる音が鳴り響き、突如として喧嘩が始まるような事も、ごく普通にある。
 それがたった今、酒場のカウンター席で起き始めたのも、不思議な事ではなかった。
 最初に鞘に収まった剣に足が当たった、謝れ、と荒くれた剣士が食ってかかった。
 当たったくらいでなんだ、とこちらも体格のいい剣士がその胸ぐらを掴む。
 やるのか、と腕を払いのけ、剣の柄に手をやった時に、別の剣士が割って入ってきた。
 「続けるなら、店の外でやりなよ、お二人さん」
 初老と見受けた人物が穏やかな口調で言ったが、お二人さんには逆効果だったようだ。
 なんだとこの野郎、と剣を抜こうとした瞬間、初老の剣士が二人を見た。
 その視線に目が合ったその時、お二人さんは悟った。
 ーこの老人と戦えば、死ぬ。
 声もなくその場を去る二人を見届けもせず、カウンター越しに初老の剣士が店主に言った。
 「口直しに、いい酒もらおうか。奥に隠してあるんだろ?」
 「隠すって・・・何をだい?」
 「ロミュラン・エール、さ」
 初老の剣士はそう言って、店主に目配せをひとつ飛ばした。
 
 

暗黒竜の胎動 序章 ー生命の樹物語ー

 歴史とは、限られた一部の者達によって紡がれ、記録として残されていく。
 だが、時の権力者にとって不都合が生じるような事実は、概ね削除されてしまう。
 それが、どれだけ大切な真実であっても。
 そのために、矛盾した歴史が数多く存在することになり、故に歴史学者は真実を求めて探求していく。

 だがー。

 神々の時代に遡るその歴史だけは、後世のどの時代においても、手を加えられる事はなかった。
 時には夢物語として。
 時には教訓として。
 
 そして、ギルタスという未曾有の危機を最悪の結果から紙一重で救った結果、アデン王国の人々は知るのであった。
 幼いころに母が読み聞かせてくれた絵本の世界が、本当に存在するのだ、ということをー。


 薄暗い集落のほぼ中心にある、大きめの造りの建物から、一人の老人が出てきた。すぐに、若い青年も後を追った。腕の部分に付けた篭手をなぞりながら、腰に備えた大剣を見る。つい今しがた、老人から託された物だ。
 「おおよその出来事は伝えた通りだが、話に聞くのと、目で見るのでは大きく異るであろう」
 老人が振り向いた。
 「神々の時しか知らぬ我らにとって、彼の地は新しきに満ち溢れておる」
 「はい、心得ております。プロケル様」
 「言葉は覚えたか?」
 「わかる限りは、全て」
 そうか、とプロケルと呼ばれた老人が、頷いた。
 「では、守護騎士として、その勤めを果たせ。整い次第、他の騎士も後を追わせる」
 「はい、プロケル様」
 次の瞬間には、薄暗い闇の中へその姿を消していた。
 しばらく闇を見つめていたプロケルが誰に言うでもなく、ぼそりと呟いた。
 「光の竜の加護を・・・」

人形が夢見るは如何なる未来か(8)完結編 ーブルディカの記憶ー

 王都警備部隊の中でも国の安寧を揺るがしかねないような事態に対応する特殊部門「第六部隊」が、港の灯台に到着した頃には、すでに事態は沈静化された後であった。
 現場検証の為に封鎖された区域に、少し遅れて魔法研究機関「象牙の塔」の使者も合流し、リュミエール達が保護されるのを見て、ブルディカは若きアデン王からの依頼が完了したことを実感した。
 「ひとつだけ、聞かせてもらってもいいか?」
 ブルディカの問いかけに、リュミエールは頷いた。
 「その人形は一体・・・?」
 「これは、試作品なの。魔力を根源に動く魔法人形。孤独な冒険者の為に、勿論冒険に役立つような能力も機能するように研究してるところ。でも、出来れば必要な時だけ召喚できたりするように圧縮保管の方も同時進行で、なかなか難しいところなんだけどね。いつか、必ず完成させてみせるんだから」
 どう?可愛いでしょ?と最後に付け加えられたが、ブルディカは返答に困った。
 「落ち着いたら一杯奢らせてね」
 リュミエールの言葉に軽く頷いたブルディカは、両腕を拘束されて連行されるダークエルフ達を見た。
 彼らはこれから第六部隊らの本部にて、取り調べを受けることになる。が、簡単に口を開く連中ではないだろう。例え、拷問にかけたとしても。
 夕暮れ時のアデン港の風景は、騒々しい一日の終わりを告げるかのように、紅に染まっていた。


 王への報告は張が引き受けてくれた。第六部隊の取り調べ等も本来は受けるべきなのだが、張の肩書である宮廷魔導師という立場が、今回の出来事がそこらの事件とは一線を超えたものであることを理解するに十分であったようだ。
 沈黙の洞窟まで魔法で送ろう、とも言ってもらったが、それは辞退した。
 久し振りにアデンの各所を見て回りたい。そんな気持ちになったからだ。
 その足でそのまま、アデンの街を背に、ブルディカは帰路へとついた。


 
 後日、独房にそれぞれ捕らえられていた主犯達が何も語る事なく、首と胴体が離れた状態で発見された。
 口封じ、ではあるのだろうが、厳重警備の最深部にあるアデン警備部隊本部の独房それぞれに捕らわれたダークエルフ達を暗殺する手腕は、只者ではない。残された死体が唯一伝えることが出来たのは、それだけだった。
 本来ならば大問題になる事件である報告を提出するも、上層部からは不問とされた。
 現場を見た第六部隊の面々が、見事としか言いようのない切り口を見て、その胸に不安を覚えた。
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