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人形が夢見るは如何なる未来か(1) ーブルディカの記憶ー

 竜の谷、と呼ばれる場所は怪物達の住処であり、古くから地竜の眠る場所として恐怖と畏怖の念を集めていた。それだけにここに踏み入る冒険者達は少なく、また彼らの多くはその生命を谷に捧げてきた。
 不死の怪物であるスケルトン系に巨躯をもって暴力をまき散らすオーガ、石化の視線で命を貪るコカトリス等の怪物に加えて、この谷を特別とする存在がまだ、ある。
 この谷に侵入する冒険者の前に立ちはだかる謎の魔法使い「黒の魔導師(ブラックエルダー)」。彼もまた、不死の存在とされており、二百年前に発行された見聞録にもその名を見る事ができる。強力な魔法を使い、幾多の冒険者達を屠ってきた暗黒の魔導師は、今日もまた谷へ侵入を試みる冒険者を見張り続けているだろう。
 そして、自由に飛び回る巨大な飛竜(ドレイク)。アデン大陸に伝わる四匹の竜、そのひとつである地竜アンタラスが眠る場所へと通じる入り口を守るかのように飛び、炎の息で侵入者を焼き払い、鋭い牙で敵を引き裂き続けてきた。これを倒せた冒険者には「飛竜狩り(ドレイクハンター)」の称号が与えられるほどで、歴史上その称号を得た者はそう多くはない。
 これら伝説にも思える存在を掻い潜り、進んだ先に隠された洞窟がある。
 かつて闇の勢力ラスタバドに属し、今は光の神を信仰する一部のダークエルフの活動拠点。
 「沈黙の洞窟」と呼ばれるこの地に、突如として瞬間移動の魔法で現れたその姿を見て、警備を任されていたカーンは驚きの表情を隠せなかった。
 真紅の髪の色に、凛とした気配。若きアデンの王と二人の魔法使いを見て、警備隊は手にした武器を収めた。
 「火急の要件、とお見受けするが・・・」
 カーンの問いに、アデン王は頷いた。
 「そこから先は私が話を聞きましょう」
 取り囲んだ警備隊の背後からそう言ったのは、ダークエルフ達の長であるブルディカであった。

 崖を繰り抜いた部屋に通された王達の前にブルディカが立っていた。
 「瞬間移動まで使っての要件、今のアデンにそれほどの脅威があるとは思えませんが」
 ブルディカの意見は、アデンに住む者として当然のものであろう。
 悪の王と呼ばれたケンタウヘルと彼を支える魔法使いケレニスを倒し、新たにこのアデンを統治したチャールズ・フォン・デュフェルと妹のアイリーン・フォン・デュヘルのもたらした平和の時間は、まさにアデンの民が求めてやまなかったものだった。その証に、統治してすでに四ヶ月経過しているが、未だに開放を祝う祭りが全土で続いている。
 待ち望んだ平和の時をわざわざ乱すような真似をするとは思えなかった。
 「話せる島にいる象牙の塔の錬金術士の一人、ラビエンヌという女性がいるのを知ってますか?」
 王と共に来た魔法使いの一人ドレビンが口にした名前を、ブルディカは知っていた。
 「あなた方人間にはそう興味はないかもしれない、が。我々ダークエルフにとって、彼女の研究はとても興味がある」
 「グランカインの涙」
 もう一人の魔法使い、張が言った。
 グランカインの涙とは自然が生み出した未知なる力の源であるとされ、その形は完全な球体で、まるで瞳のように見える模様が浮かび上がっている。あらゆる属性の特徴を秘めたこの球体が、何処から誰の手によって発見されたかはわかっていない。持ち込まれた先がアデン大陸の魔法研究機関「象牙の塔」であり、そこで長く研究されてきた。
 「あれは、ラスタバドにある地下鉱脈でごく稀に発掘されるもの。秘められた魔力を融合して作り出される装備は、究極という意味のファンタズマという冠詞がついたものとなります」
 「それを知ったのは、あなた方ダークエルフと話が出来たからです」
 真紅の髪を揺らし、リチャード王が言った。
 「グランカインの涙の人口精製を可能としたラビエンヌの研究成果はとても大きなものですが、同時に脅威にもなる危険性がある。象牙の塔は彼女にオーレンに戻ってくるように通達していたのですが、話せる島での研究がまだ残っているとかで、移動を拒んでいたそうです」
 「涙はそれ自体が強力な魔力の源です。扱い方次第では、仰るように危険なものへと変わるでしょう。象牙の塔の判断は正しいと思いますが」
 「そのラビエンヌの行方がわからなくなったのです」
 それを聞いたブルディカは、やっとで今回の緊急の来訪の意図を悟った。
 「魔力探知を行ったのですが、塔では彼女の所在地を特定できない、との事でした」
 アイリーン姫付きのナイトと魔法使いの二人が話せる島で調査した結果、数日前突然いなくなったらしい。多分、バッシュとロイだ。あの二人の報告であれば、信用度は高い。
 「ラビエンヌの消息を掴む為、ご助力頂きたい」
 リチャード王はそう言って頭を下げた。
 ふむ、とブルディカは少しの間だけ思案し、そして王達にこう告げた。
 「私が行きましょう、その方がよさそうです」
 
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