スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

人形が夢見るは如何なる未来か(6) ーブルディカの記憶ー

 一人がブルディカの左側、斜め上から空中で回転しつつ、手にした短剣の狙いをつける。
 同時にもう一人が、逆側から床を這うかのような低さで突進した。無論、その手には湾曲した剣を握っている。
 本来、音もなく暗殺することが使命であるが、時には戦闘を強いられる事もある。それに備えての訓練は欠かさず行われてきたし、左右上下からの連動の仕掛けは、実践でも数えきれないほどの勝利を挙げてきた。
 ーもらった!
 空中の男が感じるはずの肉を裂く手応えは、しかし、虚しく空を切る感覚を伝えた。
 転がりながら受け身を取ると同時に、獲物へ振り向こうとした時、自分の胸に見覚えのある柄が生えていた。
 自分の短剣だと気付き、咄嗟に視線を動かした。握っているはずの短剣は、そこになかった。腰にあったはずの長剣もまた失われている。
 突進した男は何が起きているのかがわからないまま、それでもブルディカの両足を薙ぎ払いに剣を振るった。
 部隊の中で最速と言われたそれは、しかし獲物をなぎ払う前にぴたりと止まった。
 背中から剣が貫いて、先端が床に刺さり、串刺し状態になった、と理解できたかどうか。
 表情を変えることなく、ブルディカは残りの四人を見た。
 先陣を切った二人がブルディカに到達する直前に自分の剣を納刀し、空中の敵から奪った二本の剣でそれぞれにトドメを刺した後、再び自分の武器を両の手に構えた。この一連の動きを、偽物だけが理解できていた。
 二人が倒された、という事実だけを即座に理解した二人が動く。
 右手に備えた武器は篭手の形状をしたもので、ダークエルフ達の間でガントレット、と呼ばれているものだ。主にスティングという鋭利で小さな刃物を投げつける為のもので、離れた獲物の命を奪う。
 「どうやら降参する気はないようだ」
 ブルディカの問いに無言のまま、今度は十数本のスティングが襲い掛かる。
 その場から回避行動を取って動くブルディカをスティングごと飛び越える一人が陽動となり、スティングと飛び越える一人に神経が向いた瞬間、左右の死角からの同時攻撃。刃を避ければスティングが、共に回避に成功しても飛び越えた一人が背後から、の三段構えを逃げ切った獲物は、存在しなかった。今まではー。
 ブルディカに左右から襲いかかった二人の眉間を、スティングが貫いた。
 勝てない。大きく仰け反る二人の気配を察知した、飛び越えた一人は悟った。
 結果、飛び越えた一人は獲物に向き直る事なく、そのまま扉へと直行する。
 無駄に命を散らすぐらいなら、無様に敗走するほうが、ましだ。
 取っ手に手が届く直前、スティングが首を射抜いた。
 残りのスティングが、いくつか壁に当たって、床に落ちたのは、三人が崩れ落ちたのと同時だった。
 襲い掛かるスティングを使ってその三人を仕留めたブルディカの手腕は、偽物の想像を遥かに超えていた。
 だが、それはある意味で偽物は理解していたはずであった。
 「さすがは元暗殺軍の英雄・・・伝説と共にその名を継いだか・・・・ブルディカ」
 今度はブルディカが答えず、そっと偽物に向き直った。
 その眼を見た偽物は、自らの運命を知った。
 
 

人形が夢見るは如何なる未来か(5) ーブルディカの記憶ー

 冷たい刃は、ほんの少し力をいれただけで喉に食い込むだろう。突きつけられた男は、それを痛感した。
 視線を鉄格子に移すと、小さな物体がちょこんと置いてある。緑色のぬいぐるみだとわかるまで数秒を要した。
 それが自分で動き出すとは!
 しかし、そのぬいぐるみに驚いたのは男だけではなかった。
 「なぜお前がここに・・・?」
 檻の中でリュミエールが声を出した。
 「創造主の後を追いかけてくれた。おかげで辿り着けたよ」
 魔法使いの張が説明した。途中あちこち寄り道されて困ったけどね、と付け足した張の手にした杖には、いつでも魔法が放てるように魔力を込めている。
 「二人を檻から出してもらおう」
 静かに本物が言った。
 偽物が配下に目で合図し、配下の一人が鉄格子を開ける。その足元を小さなぬいぐるみが走り回っていた。
 「エルフの洞窟で、ラスタバドの暗殺部隊はすべて片付けたつもりだったが」
 ブルディカの問いに、睨みつけることで答えた偽物は奥歯を噛み締めた。
 リュミエール達を外に誘導しながら、張は一緒に部屋を出る。
 「ここから先は、錬金術士達には酷な場面になるかもしれん」
 瞬間、偽物の腹部に痛烈な痛みが走り、部屋の壁に吹き飛ばされた。
 腹部にブルディカの蹴りが入った、と理解できたかどうか。
 「ここにいるだけが私の部隊だと思っているのか?」
 吐き捨てるように言いながら偽物が立つ。
 「外に逃したから、といって安全だとは思ってない」
 ブルディカが手にした剣を構え、部屋の中を見回した。
 偽物に、武器を手にした配下が三人、床に転がっているのが二人。
 「少なくともあと二人、一部隊を編成するには必要だ。それがラスタバド暗殺部隊の教えだから」
 さて、とゆっくりと体制を低めにすると、ブルディカがその両手にした剣を突き出す。
 「おとなしく投降するか、洞窟の仲間の元に行くか。自分達で決めるといい」
 「もちろん」
 偽物もその手に剣を構えた。
 「お前を殺し、魔法使いも殺し、錬金術士達を取り戻す」
 配下が床に寝ている仲間を足で起こす。
 蹴られた配下が頭を振りながら気を確かにしていくのを、ブルディカは止もしない。
 「お前の首を持って帰ったなら、スレイヴ様もお喜びになる」
 「スレイヴが?・・・そうか、彼が軍団長に」
 ブルディカの気が緩んだのを察知した刹那、暗殺部隊が一気にブルディカを襲った。
 

人形が夢見るは如何なる未来か(4) ーブルディカの記憶ー

 アデンの街を囲む城壁にはそれぞれに門が配置されており、北側には商船が出入りする大きな港が面している。外部からの侵入には船等の目につきやすい乗り物が必要となるためか、警備は他の門よりも比較的配置がゆるめになっている。
 少なめの警備兵の間を通り過ぎ、リュミエール一行は港にある灯台へと向かった。
 商船の入荷作業はすでに終わっていたようで、他に人影は見当たらなかった。一行は螺旋式の階段を登って、途中にあった設備室の扉を開ける。勿論、リュミエールの背後にはいつでも刺せる位置に短剣が握られていた。
 やや薄暗い部屋の中、高めに設置された丸窓から差し込む光が宙に浮く埃を煌めかせていた。
 一番奥の壁際には小さめの鉄格子があり、そこに錬金術士を象徴する薄緑色の服を纏った女性が入れられていた。
 リュミエールには一目でそれが誰なのかがわかった。
 「・・・・ラビエンヌ」
 鉄格子の内側から手が届かない場所に、何枚かの札が貼り付けられている。あまり見たことがない様式の術ではあるが、部屋の中にあってラビエンヌの魔力を感じない事から、どうやら鉄格子の中の魔力を封印する効果があるらしい。
 「彼女がなかなかお話をしてくれなくてね」
 ブルディカと名乗った男がリュミエールを鉄格子に向かって案内するように、手を差し出した。
 「貴女にご足労願った訳だ。とりあえず、そこに入ってもらおうか」
 黙って指示に従ったリュミエールは、鉄の檻の中で親友を見た。まだ酷い真似はされていないようで、少し安心した。
 「今すぐにでも二人には話を聞きたいところだが、ここじゃゆっくりも出来ないんでね」
 おい、と配下の者に声をかけ、何やら小声で指示を出すと二人ほどが部屋から出て行った。
 「ここから夜を待って船で移動する。それまで親友との再会を楽しむといい。まあ、我々と話をしてくれないなら、その気になるまで我々を楽しませてもらおう。海賊島に到着するまで時間はたっぷりとあるからな」
 いやらしく目元を歪ませて二人を見る男の視線には、あからさまな性欲が込められている。
 その時、扉が開いて先ほど出て行った配下の二人が戻ってきた。
 途端にその場に倒れ込む。
 振り向いた男が腰にあった剣に手を伸ばした刹那、足元を素早く走り抜ける何かに気を取られた。
 確かめようと顔を動かそうとして、自分の首に当てられた冷たい存在に初めて気が付く。
 漆黒に染め抜かれたそれは、緩やかな曲線を描く短剣であり、男はそれが何か知っていた。
 「・・・本物のお出まし、か」
 短剣を握るは、王から依頼を受けたダークエルフのブルディカ本人であった。

人形が夢見るは如何なる未来か(3) -ブルディカの記憶ー

 長い耳に大きく裂けた口、丸い目がつけられた人形を前に、張はある生物を思い浮かべていた。それはブルディカも同様であった。
 「グレムリン・・・のようですね」
 アデン各所に生存するグレムリンは、地面に落ちているものを何でも収集するという特徴がある。今の反応から見て、その特徴を引き継いでいるようで、しかもここは稀代の天才錬金術師の部屋だ。
 「ただの人形ではない、ということですね」
 部屋の様子から、この人形が荒らした所以外、特に家探しされた痕跡は見当たらなかった。
 「さて・・・困ったな」
 ブルディカを名乗る謎の人物と一緒に出掛け、残されたのは不細工な人形ひとつ。行先を探ろうにも心当たりがわからない。
 どうすべきか思案中の二人は、ほぼ同じ考えに行き着いたようでー。
 ぴたりと動きを止めていた人形の首が、少しだけ傾いた。


 アデンの商店街を北の方向へと向かっていたリュミエールは、常に何か考え事をしているように見えた。腕を組み、片手は自分の顎を支えるように当てている。
 突然訪ねてきたブルディカと名乗る人物が人間ではない事は、一目でわかっていた。深く被った旅人用の外套の下から見えた肌の色は異常に青白い。
 王からの使いで、親交の深いラビエンヌが行方不明になった。その探索にどうか一緒に来てご助力願いたい、との話だったので同行することになった。簡単な荷物をまとめ、すぐに出発したのはその日の午後になったばかりの頃である。
 「-といったわけで、今に至るのです」
 ブルディカの説明も聞いているのかわからない様子であったリュミエールだが、ふと立ち止まってブルディカを見た。
 「どうされました?リュミエール殿」
 商店街を抜け、首都の北門が見えた辺りである。
 「さっきから気になっていたんだけど」
 顎に置いていた手を下ろし、普通に腕組みをした姿勢になったリュミエールは続けた。
 「周囲を取り囲んでる四人は、あなたの配下の人?」
 ほう、とブルディカは驚いた。
 「気配を消している我々を察知されるとは、さすが天才といったところですか」
 「正解、というわけね」
 視線をブルディカに戻して、リュミエールはさらに続けた。
 「ではもうひとつ。あなた、ブルディカという人じゃないでしょ?」
 気配が変わったのを、リュミエールは感じた。
 温厚そうな雰囲気が、一変していた。
 それは冷たい刃のような殺気であった。
 同時に周囲の四人が一気にリュミエールを囲んだ。
 「それも、正解、てことね」
 ブルディカを名乗った男の口元が醜く歪む。
 「勘が鋭いな、お嬢さん」
 丁寧な口調は、歪んだ口元に似合ったそれに変わっていた。
 リュミエールの背中に小さな痛みが走った。何かの切っ先が突きつけられている。
 「そのまま後ろから内臓をかき回されたくはないだろう?」
 組んでいた両腕を頭に移し、抵抗の意志がないことを示したリュミエールの表情は、しかし平常心であるようであった。
 「天才だけに、賢い選択だな」
 

人形が夢見るは如何なる未来か(2) ーブルディカの記憶ー

 沈黙の洞窟を出たブルディカは、アデン王に仕える魔法使いの張と共にアデンへと向かい始めた。王とドレビンは再び瞬間移動の魔法で王都に先に帰還し、残った張がブルディカに同行することになった。洞窟に来た時の瞬間移動の魔法によって、張の魔力が尽きかけていた事も考慮して、である。
 今から話せる島に向かっても新たに得られる情報はないだろう、との判断であったが、首都アデンに向かうにはそれなりの理由があった。
 行方不明となったラビエンヌと親交の深い人物が首都アデンに滞在しているからだ。その人物もまた象牙の塔の錬金術士の一人であり、若き天才と謳われた人である。
 洞窟を出た二人は、ふと空を見上げた。
 王達の不安を余所に、アデンに降り注ぐ太陽は収穫の時を告げる黄金色に輝き始めていた。

 首都アデンーそこは広大なアデン大陸を統治するべく建築された王都である。華やかな屋台が犇めき、高級住宅街が立ち並ぶ反面、スラム街と呼ばれ下級階層の人々が暮らす場所も存在する。光と闇が混在する巨大な都の商店街の一角にある老舗の雑貨屋「涼風の香る丘」の店主キャサリンがお店に尋ねてきた二人を見て少し眉を寄せた。
 「はぁ・・確かにリュミエールさんはうちに居候しておりますけど」
 そう言って、回復薬を買いに来た客に商品を手渡してから、二人の顔を見た。
 「さっき訪ねてきた、えっと・・・ブルディカさん、だったかな。その人と一緒に出かけちゃいましたよ」
 それを聞いて、今度は訪ねてきた二人が眉を寄せた。
 -どうなってるんです?あなたの名前がありふれたものとは思えませんが・・・。
 張の囁きに、ブルディカが頷く。
 「すいませんが、少しの間リュミエールさんのお部屋を見せていただいてよろしいですか?」
 張はそう言いながら、キャサリンにそっと布袋を差し出した。それ相応のアデナが入っているようであったが、キャサリンの注目したのは袋にある紋様であった。獅子を描いた紅の家紋は、王並びに王に仕える家来に渡されるもので、つまりは目前の二人がアデン王に仕える者であるという証拠であった。
 「そそそんな、受け取れませんよ!それは!」
 慌てて部屋の入口を教えてくれたキャサリンの豹変ぶりに少し笑みを浮かべた二人が、案内されるまま、その部屋の前に立った。
 扉を二、三度軽く叩き、中からの返事を待ったが、代わりに聞こえたのは何かが暴れたような音であった。
 視線を交わした二人が扉を開けた。
 瞬間、ブルディカの動きが止まった。
 手狭の部屋の中、作業机らしきものの上には様々な書物が積み上がり、もうひとつの机の付近には床に落ちた大きめの布と散乱した食器、そしてー。
 「・・・・・これは?」
 お世辞にも上手に作られたとは思えない緑色の小さな人形が、顔だけを入口に立った二人にゆっくりと向けた。
 「・・・動く・・・人形?」
 最近、ここまで困惑したのは知り合いの泥酔したエルフに無理やり飲まされそうになった時以来だった。
 刹那、ぴょこぴょこと部屋の床を逃げ回るかのようにぐるぐる回り、人形は落ちていた皿やらさじやらを拾い上げ、どこへつもなくその身に隠していく。
 「これも・・・研究のひとつ、かな」
 張が呆れ顔で言って、しゃがみこむ。
 ぴたり、と動きを止めた人形が再び二人を見て、きょとん、としていた。
 
 
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
カテゴリ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。